韓国安眠島・大川旅行記2




01安眠島の朝

 昨日、テレビを見ながら夜更かしをしていたのだが、8時には目が覚めてしまった。朝のニュースを見てみると、今日も一日いい天気のようで、安眠島観光にはうってつけだった。コンビニで買ったパンなどを食べながら今日の大まかな予定を思い浮かべてみる。

 まず、安眠島の中心である「アンミョンウプ」(安眠邑)の「スンオン」に行って、バスターミナルの状況を調べたり邑事務所(ウプサムソ:村役場)などを訪問して「そもそも安眠島ってどうなのか?」などを直撃取材(?)してみる。そして、そこから安眠島で一番有名で面白そうな「コッチヘスヨクジャン」(コッチ海水浴場)に行って夏の安眠島を堪能してから、安眠島を縦断して一番南のヨンモクハン(ヨンモク港)まで移動し、フェリーに乗って対岸のテチョン(大川)に渡ってみるといった具合だ。

 しかし、そこから先については、時間の関係で出たとこ勝負になるだろう。天童よしみの「珍島物語」で有名になったチンド(珍島)と同じように、干潮時に海割れ現象が起こって対岸の島と陸続きになると言われている「ムチャンポヘスヨクジャン」(武昌浦海水浴場)に抜けるも良し。鄙びた港街「クンサン」(郡山)に行くも良し。とにかくテチョン(大川)から時間の許す限り海岸沿いに南下して行くといった感じだ。





02安眠島へ移動

  9時30分頃に宿を引き払い、徒歩数分のバスターミナルに移動して安眠島行きのチケットを購入する。値段は2,100ウォンだった。乗り場を見に行ってみると、昨日のうちに時間を確認しておいた9時50分発のバスが既に到着していたので乗り込む。客は僕のほかには数人しかいなかったのだが、定刻となったところで出発となった。

 バスはしばらくテアン(泰安)の市街地を走っていたが、大きな通りを左に折れたあたりから急に細いくねくね道へと突入していくのだった。いつしか両側には田んぼが広がり、田舎に来たなぁという実感が湧いてくる。昨日は真っ暗な中を移動してきたので、明るいうちに韓国の田舎をバスから眺めるのは、今回の旅では初めてだったのだ。

 10時ごろに「モンサン」という場所に到着すると、子供たちが数人降りていった。何かの施設があるようだ。そして、さらにバスは先に進んでいくのだが、先ほどの田んぼではなく、だんだんと林の中を進んでいくようになる。よく見てみると松林で、これが安眠島名物といわれる、いわゆる「安眠松」(アンミョンソン)なのだろうか? 安らかに眠れそうな形をしているかというと、そうでもなくて、なんだかひょろっと細長い松だった。たぶん、日本でいう「赤松」ではないかと思うのだが、よく分らなかった。赤松なら、マツタケなどもあるのだろうか? そう思っているうちにバスはさらに進んでいき、半島と島の境目にある安眠大橋へと差し掛かった。

 しかし、その安眠大橋は想像していたよりも小さな橋で、油断していると気がつかないうちに通過しかねないぐらいのものだった。境目にある海も、なんだか中くらいの河といった雰囲気で、「島に入った!」というような感じではない。もともとここは島ではなく、朝鮮時代に運河を掘ったことで結果的に半島が島になってしまったというだけあって、造りからしてそうなんだろうと思った。

 橋を越えてしばらく走っていくと道の両側に建物がぽつぽつと建ちだしたので、島の中心部にさしかかったようだ。さらに進むと警察署なども見えてきたので、どうやらここが「安眠邑」(アンミョンウプ)の「スンオン」に間違いなさそうだと思っていると、小さ目の広場前にバスが停車した。数人の乗客が降りていく。
 「ここ、スンオンで間違いないですか?」と運転手に聞いてみると大きくうなずいたので、ここで下車することにする。しかし、先ほどターミナルで購入した2,100ウォンのチケットを運転手に渡すと、「600ウォンを追加で」といわれたので、じゃらじゃらと小銭で支払った。どうやら、安眠島行きの最低料金(2,100ウォン)をまず買って、距離に応じて追加料金を支払うシステムのようだ。結局、テアン(泰安)、安眠邑間は2,700ウォンということらしい。



テアン(泰安)バスターミナル



見落としそうな安眠島と半島の橋

03アンミョンウプ(安眠邑)スンオン

  バスを降りて道の向こう側にある広場を見てみると、無造作に停められている自家用車に遠慮するかのように数台のバスが肩を寄せ合っていた。なるほど、ここがスンオンのバスターミナルということなら、ここから島の各所にバス路線が放射線状に伸びているはずだ。田舎の島の交通網がそういうように出来ているってのは、前回のコジェド(巨済島)の旅行で思い知ったところである。

 さて、安眠邑でやっておかなければならないことがある。ターミナル周辺の調査と、前述のとおり、安眠邑の邑事務所(ウプサムソ:村役場)に行って、「そもそも安眠島ってどうなのか?」について事務所の人に聞いてみることだ。これは、連れ合いと約束してきたので、ぜひ果たさなければならない。

 邑事務所についてはターミナルに着くちょっと前に右側に見えていたから、とりあえずはそこを訪れてみることにしよう。何か教えてもらえるかも知れないし、観光案内のパンフレットとかをもらえるかもしれない。

 坂道をさっきバスが来た方向に戻って行くと、じりじりと照りつける太陽の光を浴びて、あっという間に汗が噴出してきた。タオルを首にかけて拭き拭き歩いていくと、ヨグアン(旅館)やらハナロマート(農協系のスーパー)などが並んでいるのが見えた。街としての機能は、しっかりしたものがあるようだ。規模としては珍島(チンド)の珍島邑(チンドウプ)、巨済島(コジェド)の玉浦(オクポ)くらいだろうか。坂を登りきるあたりで、邑事務所が見えてきたので、中に入ってみた。

 土曜日だったからか、邑事務所はがらんとしてほとんど人気がなかった。中に入ってみると各種手続きができるタッチパネル式のコンピュータが置かれていて、その奥に事務室が見えた。ガラスのドア越しに中を覗いてみると、3〜4人の職員が座っている。意を決して中に入ると、一番前に座っていた若い女性が対応してくれた。

「あの、私、日本から来たんですけど、この安眠島のことで教えてもらいことがあって」
「はい」女性は不思議そうな顔をして答えた。
「なんで安眠という名前なのかとか、そういうの書いた資料とかありませんか?」
「あ〜、そうですね。あるにはあるんですけど、今、ちょっと切れてるんですよ」
「今、ないんですか?」
「ええ・・・今からコッチヘスヨクジャン(コッチ海水浴場)に行かれます?」
「う〜ん、その予定ですけど」
「じゃ、そこに案内所があるから、そこでもらえると思いますよ・・・」
「そうですか・・・」
「・・・・」
「分りました・・・。ありがとうございました」

 ということで、すごすごと邑事務所を後にしてしまったのである。ま、役場なんだから仕方がないってところだろうか・・・。コッチ海水浴場にはこれから行く予定にしていたので、そこで手に入れることが出来ればいいか、と自分を無理やり納得させたのが、しかし、あの雰囲気で「ところで、安眠島って名前、どう思います?」とはちょっと聞きにくかった。いや、聞くつもりでドアをノックすべきだったわけで、気持ちの準備、インタビューに向かう段取りが甘かったということだ。いきなり聞いても変な人だし、フランクに話せる雰囲気作りが必要で、これは今後の課題だ。なんだか中途半端な感じで、気持ち悪かった。






スンオン バスターミナル



安眠邑事務所

04スンオンを散策、そしてコッチ海水浴場へ

 さて、邑事務所を出て、そういう気持ちにキリをつけながら先ほどのバスターミナルの広場まで戻り、広場を一周してみる。ヨグアン(旅館)が数軒あって、野菜やらお菓子などを売る万屋のようなものも数軒あった。それに、タバン(茶房:喫茶店)もあるし、「天国ルーム」と書かれたアヤシイ店(風俗店:おそらくキャバレーのようなところ)がヨグアンに併設されていたりして、小さい街ながら何でもあるんだなぁという印象だ。天国ルームにまず入って、そこで気に入った女性がいればそこで商談が始まって、まとまり次第、ヨグアンへ直行ご休憩といったところだろうか・・・。

 さて、コッチ海水浴場に行こうと思ったのだが、バスの乗り方が分らない。そもそも、どっち向きのバスに乗ればいいのだろうか。
 広場側に止まっているバスの運転手に聞いてみると、コッチ海水浴場に行くには、広場の向かい側に来るバスに乗る必要があるらしい。よくよく話を聞いてみると、僕がテアン(泰安)から乗ってきた座席バスなどが、そのままコッチ海水浴場まで行くようなのだ。

 とりあえず言われたとおりに道を渡ってバスを待ってみたのだが、来るのは自家用車ばかりで、一向にバスの来る気配がなかった。テアン(泰安)からのバスがそのままコッチ海水浴場まで行くのであれば、発車の間隔からしてしばらく来ないはずだし、この炎天下の道端はいつ来るか分らないバスを待つには、ちょっと暑すぎた。こりゃ、タクシーが来たらさっさと乗ってしまおうと思ったのだが、今度はタクシーがなかなかこない。相変わらず自家用車とトラックばかりが通過していったのだが、十数分後にようやく空車のタクシーにありつけた。すばやく停めて乗り込み「コッチ海水浴場まで!」と告げると、タクシーはぶるるるんと音を立てて走り出した。





スンオンの街を南北に貫く安眠島の大動脈

05コッチ海水浴場の岩場に下りてみる

 タクシーは街中を抜けてあっという間に海岸に出る。すると、前方にコッチ海水浴場のランドマークである「ハルミ、ハラビバウィ」(おばあさん、おじいさん岩)が見えてきた。テジョンのインフォメーションでもらった観光案内の写真では、なんか海から突き出た岩山というような印象だったのだが、海岸から繋がっていて、しかも、その岩場にはたくさんの人がうじゃうじゃと張り付いていた。海岸の入口付近にあった大きな駐車場横でタクシーを降りて(3,400ウォン)防波堤の方に近づいていくと、露天の店がいくつか出ていて、ジュースやおやつと一緒に潮干狩りなどに使う「熊手」を売っていた。やはり、あのたくさんの人たちは貝かなにかを採っているんだろう。

 防波堤を越えて岩場へと降りてみる。
 防波堤近くは比較的乾いていたので、潮が引き始めてかなりたっているのではないだろうか。さらに岩場を歩いて行くと、たくさんの人が一生懸命、巻貝や小さなカニなどを採っているのが見えた。岩場なのでアサリなどではないようだ。そして、それぞれバケツやら網やらを持って、うろうろしている。
 さらに「ハルミ、ハラビバウィ」の方へ近づいていくと、岩の横から続いている海水浴場が見えてきた。おお!

 僕の目の前にあるのは、信じられないくらいの広さの砂浜と、そして信じられないくらいの人が海水浴を楽しんでいる光景だった。いや、これはすごい。少なくとも僕が今まで経験した中では、もっとも長くて面積のある砂浜だった。とにかく大きさが半端ではない。防波堤から海までの距離がものすごくあって、しかもかなり沖の方まで人がいるから超遠浅の海岸なんだろう。そしてすごいのはその長さで、砂浜の一番端にある「ハルミ、ハラビバウィ」から見て、もう片方の砂浜の先は霞んで見えなかった。いやはや、これはいったい何キロくらいあるんだろうか。SF映画ののロケ地で使えそうな感じだ。ああ、さすがに大陸の一部。これを見ることが出来ただけで、苦労して来た甲斐があったというものだ。

 砂浜の写真を撮ろうと思ってカメラを向けたのだが、あまりの大きさに全体を撮ることなどは到底無理だった。仕方なく細切れに収め、「ハルミ、ハラビバウィ」も何枚か写真にとって、二つの岩の間あたりまで歩いていった。すると、おばあさんとその娘、たぶん30台半ばと思われる主婦っぽい人が、一生懸命にカニを捕まえているが目に付いたので、声をかけてみることにした。





ハルミ ハラビバウィ


売店に群がる客たち

06カニを取る親子

「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
「はい?」
 その主婦っぽい女性が、かがんだ姿勢から顔を上げて答えてくれた。
「今、採っているのはカニですか?」
「ええ、そうですよ」 女性は汗をぬぐいながら答えた。
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ええいいですよ」

 僕は身を乗り出して、小さなバケツの中を覗き込んでみたのだが、そこには親指の第一関節くらいの小さなカニがたくさん入っていた。うわあ。
「いっぱいありますね、これ、写真撮ってもいいですか?」
「ええ」

 バケツの中のカニをぱちりと写してみた。

「ところで、これ、なんというカニなんですか? 私、日本から来たんで、ちょっとよく分らないんですけど・・・」
「ふふふ、そうみたいですね。ウリナラ サラム(私たちの国の人)ではないみたいですね。これ、全部、コッケ(渡りガニ)なんですよ・・・」
「え? 全部、コッケなんですか???」
「ええ、そうですよ」
 うわ、それはすごい。小さいとはいえ、これ全部、渡りガニなんだ。いやはや。
「そりゃ、すごいですね。この辺にいるのみんなそうなんですね」
「そうです」
「・・・ところで、この小さいの、大きくするんですか?」
 そう聞いたとたん、女性は大笑いしながら答えた。
「いえいえ。小さいのは逃がして、大き目のものを持って帰って、スープに入れたり漬けたりするんですよ。そのまま食べるのよ」
「はぁ、そりゃそうですね。食べるんですよね」

 馬鹿な質問をしてしまった。そうだよ、そのまま食べるんだ。いや、しかし、フナムシのようにうじゃうじゃといるこのカニが、みんな渡りガニとは恐れ入ったよ。海水浴も楽しめるし、こういうのも楽しめるし、景色はいいし、コッチヘスヨクジャン(コッチ海水浴場)最高だ!

「ところで・・・写真撮らせてもらってもいいですか?」

 感動の余韻に浸る間もなく、意を決して課題の言葉をその女性に言ってみた。今回の旅のテーマの一つ「話をした人の写真を撮って帰る」の実践第二弾だ。おばさんはちょっと驚いたような顔をして答えた。

「しゃ、写真ですか? どうしてですか?」
「記念にですよ。それに、私、ホームページを持ってるんですけど、それでここのことを紹介したいと思ってますし、お願いします」
「写真はいいですよ、いいです」
 女性は盛んに断っていたが、「ダメですか?」ともう一度聞いてみると、こちらを向いてこう言ってくれた。
「じゃ、子供と一緒に撮ってくれます? それならいいですよ」
「ありがとうございます」
 僕がお礼を言うと、女性は子供を呼んできて、いっしょにポーズをとってくれた。そして、こう言った。
「じゃ、アジョシ(おじさん:僕のこと)の写真も撮りましょう。子供と一緒に」
「ええ」
 今度は、僕がその女性の子供たちと一緒に岩に立ってポーズをとる。撮影終了だ。
「お世話になりました。ありがとうございました。これで行きます」
「ええ、いい旅をなさってください」

 女性とはここで別れた。面白い話を聞けた。




カニを取る人々



ワタリガニだぁ!



お世話になった親子

07コッチ海水浴場を堪能する

 今度は、岩場を出て砂浜の方に向かって歩いていく。砂浜はとても細かい砂で出来ているらしく、硬く締まっていた。これなら自転車で走ることも出来そうだな、と思っていたらぶぶぶぶ〜んとバイクが走り去っていった。荷物を運んでいるらしい。それくらいは十分出来そうだ。
 砂浜もよく見てみると、細かい筋がたくさん入っており、その筋の先をたどると小さな穴が開いていた。どうやらカニやら巻貝やらが動いた跡のようで、海に入らなくても十分楽しめるアイテムで満載だった。

 さらに歩いていくと車が止まっていて、その横にテントが建てられていた。ノボリも立っていて、そこには「モーターボート乗り場」と書かれていた。要するにバナナボート乗り場だ。
 しかし、この超ウルトラ遠浅の海岸なので、波打ち際から浮き桟橋を長く伸ばして、その先から船が出るような仕組みにしているようだった。その浮き桟橋自体も潮の満ち引きで移動させる可動式のような感じのものだった。

 このまま砂浜を歩いて行くのは楽しかったのだが、ちょっと暑くなってきたので、適当なところで階段を上がって、防波堤横の道をある程度のところまで行ってみることに方針変更した。階段を探して砂浜から上がってさらに進んでいくと、山手の方に簡易式の露天食堂街が見えてきた。中を覗いて見たら、メインはやはりコッケタン(渡りガニ鍋)で、その他海鮮料理一般が食べられるようだったが、う〜ん、そろそろ昼飯時だし、何か食っておいた方がいいかもしれないのだが、一人で鍋を食べるのはあまりにも寂しいので、一通り海水浴場を見学したところでもとに引き返すことにした。




果てしなく続く海岸
向こう側はかすんで見えない・・・


遠浅な海岸


食堂はやはりコッケタン(渡りガニ鍋)が名物?


安眠邑へ行くバスに乗り込んだ

08安眠島を出よう・・・

 防波堤横の道路を「ハルミ、ハラビバウィ」の方向に戻って行くと、先ほどタクシーを降りた大きな駐車場に出てきた。大量の自家用車に混じって観光バスなども停まっており、安眠邑(スンオン)に戻る島内バスもこの駐車場のどこかから出ているのではないかという感じだ。島内バスが止まるとしたらこの辺りしかないからだ。運がよければ、直接「ヨンモク」に行くバスもあるかも知れない。

 自家用車の交通整理をしているおじさんに「バス乗り場はどこにあるんでしょうか?」と聞いてみると、駐車場の端のほうを指差して「あそこにみえるだろ?あれが乗り場だよ」と教えてくれた。お礼を言ってそのバスが止まっている辺りに行ってみると、駐車場脇にバス乗り場があった。横には小屋も建っていて、バスの時刻表などが張られていた。チケット売り場だ。
 時刻表を見て驚いたのだが、なんとここからソウル行きの直行バスに乗れるようなのだ。いや、さすがソウル様、恐れ入りました。おそらく夏の観光シーズンのみの特別運行なんだろうと思うけど、やはりソウルに住んでいるのとそうでないのとは、差があるよなぁこの国はとまたまた思ってしまう。距離的には断然近い「ソサン」(端山)とか「チョナン」(天安)の方に行く方が、手間も時間もかかるんだ。これは参ったなぁ。因みに、そういう「高速バス」じゃなくて「島内バス」に乗りたいんだけど、どれに乗ればいいんだろうか。待合場所でウダウダしている運転手に聞いてみることにした。

「あの、すいません。ヨンモクに行くバスに乗りたいんですけど」
「え?どこだって?」爪楊枝を片手に持ったおじさんが大声で答えた。さっきまでメシでもを食っていたのだろうか。
「島の南部のヨンモクですよ。船に乗りたいもので」
「ああ、ヨンモクね。直接行くバスはないね。一旦、アンミョンウプで乗り換えかな」
 ほぼ予想通りの答えだった。やはりこの島も安眠邑(アンミョンウプ)がバス路線のハブになっているんだ。
「そうですか。じゃ、安眠邑に行くバスは・・・・」
「これに乗ればいい」
 おじさんはすぐ横に停まっている座席バスを指差した。どうやら、テアン(泰安)からソサン(端山)に行くバスのようだ。元に戻る途中で乗り換えるってことになるんだ。僕はおじさんにお礼を行って、そのバスに乗り込んだ。

 ところで、ここに来るまでの間に観光案内所のようなものを探しながら歩いてきたけど、特にそういうようなものが見つからなかったし、結局、安眠島そのものの観光案内はもらえなかった・・・・それに、このまま帰ってしまうと「ところで、安眠島って名前、どう思います?」という質問を島民に向ける機会がなくなってしまう。ヨンモクで声をかける暇があるかどうか分らないし。ちょっと残念というか、連れ合いのギモンに答えるような「おおっ!」というようなモノを見つけることが出来なかったのが、ちょっと心残りだった。

 しかし、もし質問を続けようと思えば、ここに何泊かして親しく話が出来る機会を窺うしかしかないのだが、今回の旅に関しては、それはちょっともったいない気がした。全体の日程がもっと長いのなら別だけど、4日の日程ではどうにもならないし、なによりファミリーな雰囲気のこの島に、一人旅でぶらぶらするのは、分ってはいたけれどちょっと「痛い感じ」がするのだ。こりゃ、もう一回、家族で来なきゃいけないな・・・と思った。独身の時には感じなかった痛みかも知れない。
 そういうようなことを考えていると、運転手がどかどかっと乗り込んで来て出発となった。


09ヨンモクへ向かう

 バスはタクシーできた道をそのまま逆に走っていき、十数分後にはアンミョンウプ(安眠邑)のバスターミナルに到着した。僕が降りようとすると、運転手が声をかけてくれた。
「あそこに見えるバスがあるだろう。そう、人が乗ってるやつ。あれがヨンモク行きだからね」
 運転手は広場の真中あたりに駐車中のバスを指差しながら言った。
「あれですか・・・ありがとうございました」
 僕はそう言いながらバス代にと1,000ウォン札を差し出すと、150ウォンのおつりが返ってきたので、どうやら運賃は850ウォンだったらしい。そしてバスを降り、運転手に教えてもらったヨンモク行きのバスに乗り換えたのだが、そのバスには既にたくさんの人が乗り込んでいて、座るところがない状態だった。僕が乗り込んでからも若い海水浴客だと思われる人がたくさん乗ってきて、ほぼ満員の状態になったところで運転手が現れ、ぶるぶるんとエンジンをかけた。

 韓国の路線バスは運賃先払いがほとんどなのだが、乗り込んだときには運転手がまだ席についていなかったし、結局、お金を払わない状態で出発になってしまったのだ。僕のほかの若い客も「お金はどうするんだろう?」というような表情をしていたが、地元の乗客が特に気にしていないようなので、多分、後払いなんだろう。バスは大きな音を立てて走り出した。

 バスは一旦、コッチ海水浴場のほうに向かったのだが、海岸には向かわずに山の中の道をひたすら走りつづけた。地元の人をちょっとずつちょっとずつ下ろしながら、そして「安眠島自然休養林」や蓮の花が満開の池などを通過するたびに、観光客っぽい人を下ろしながらバスは進んで行き、30分ほどで終点のヨンモク港(?)に到着した。時刻は13時10分を指していた。





安眠邑でヨンモク行きのバスに乗り換える

09ヨンモク港にて

 お客がぞろぞろ降りているので、ここが終点であることは間違いないのだが、本当にここがヨンモク港なのだろうか? 念のために運転手に聞いてみると、「そうだ」というので、ついでに大川に行く船がどこから出るのか聞いてみると、「そこの坂道を下りていけば分る」ということだったので、運賃の1,500ウォンを払い、言われるとおり坂を下りていくことにした。
 他の客と一緒に坂をぞろぞろと降りていったのだが、僕以外の若者の集団が坂道の途中のヨグアン(旅館)に消えていった。一人になってちょっと心細くなったが、細い坂道をさらに下りていくと、海に出た。港だ!

 しかし、海岸に出てきたとはいえ、船が着くような場所が見えなかった。周りを見回してみると派出所があったので警官に聞いてみると、「海に向かって左の方に歩いていくとターミナルが見えるよ」ということだった。言われた方向にさらに歩いていくと、旅客船ターミナルの建物が見えてきた。これだ!!!

 ターミナルの前には魚料理を食べさせる店が並んでおり、人通りも多いこともあって思った以上に活気があった。うらぶれた港を想像していたのを見事に裏切られた感じなのだが、シーズン真っ只中ということを考えると、当たり前なのかも知れない。
 ターミナルの中に入ると、まるで万屋のように食べ物などが並べられていて、雰囲気としてはスーパーマーケットか何かだった。「これ、本当に船のターミナルかぁ?」と思ってしまったのだが、奥の方で高校生くらいの男の子がテーブルの上に並べたカラフルなチケットをちぎっては売り、ちぎっては売りしていたので、ターミナルに間違いはなかった。しかし、ビジュアル的にほとんど学園祭のノリだ。ずいぶんと若いやつがやってるけど、バイトか何かなんだろうか。
 順番を待ちながら周りを見渡してみると、壁に時刻表と料金表が貼られているのに気がついた。テチョン(大川)に行く便はもちろんあるし、この辺りの小さい島を巡る遊覧船も出ているようだった。・・・遊覧船かぁ・・・。それは考えてなかった。
 まだ昼の1時過ぎという時間からして、遊覧船に乗ったとしても、2時か3時くらいには戻って来るだろうし、次の予定地であるテチョン(大川)に行くには問題ないはずだ。しかし、遊覧船のコースが建物を出たところに表示されていたのだが、今ひとつ興味を引くような感じでもなく、このまま大川に渡ってしまったならムチャンポ(武昌浦)まで行けるかもしれないし、遊覧船乗船は見送ることにした。船旅という点ではこれからフェリーに乗るのだから、それで満喫すればいいのだ。





坂を下りると海が見えてきた!


ヨンモク旅客船ターミナル

10ヨンモクからテチョン(大川)へ

 行き先が決まったので、先ほどの若いにーちゃんからチケットを購入する。7,000ウォンだった。お金を支払って船の時間を聞いてみると、「13時30分くらい・・・・かな?」という、非常に曖昧な返事だった。よく聞いてみると「来たら出る」ということなので、夏季シーズンのピストン運行状態のようだ。ま、来たら乗るでいいじゃないか。
 チケットを確認して、乗り場の方に向かって歩いていくと、既にたくさんの車が順番を待っていた。ものすごく急な坂に停められており、干満の差の激しい港ではこうやるしか仕方がないのかも知れないが、ちょっと強引なアプローチだ。車の周りに人が集まり始めており、そろそろかなぁと思って海を眺めてみると、小さ目のフェリーが現れ、あっという間に大きくなってきた。どうやらあの船に乗るようだ。

 フェリーは間もなく接岸し、乗り込む人がわれ先にと入口に向かって殺到していった。特に交通整理はないのか?と思ってみていたら、一応、車の乗り込みに関しては交通整理があるようで、急な坂道でこの期に及んで「Uターンさせてバックから乗り込むように」指示をしていた。しかし、バックで乗り込ませるのももちろん珍しいけど、船が着いてから一台一台ユーターンさせてフェリーに乗り込ませるというのは、あまりにも段取りが悪い。どういう理由なのか聞いてみたいところだったが、そんな余裕はなく、とにかく乗り遅れないように急いで船に入り込まなければならなかった。
 船に乗り込み、側面にある細い階段を上がりきると、客室に出た。長椅子が整然と設置されていて、その奥には座敷席が用意されていた。とりあえず、椅子席に座って今までの行程をメモにまとめていたのだが、気がついたときには船は既に出港していた。

 このままテチョン(大川)までまっすぐ行くのかなと思っていたのだが、船はすぐに港に到着してしまう。距離的に考えて、ここが絶対に大川であるはずはないのだが、念のために聞いてみるとヨンモク港からすぐのところにある島だった。どうやらこのまま島伝いに大川まで行くらしい。大川まで「直接行く便」もあるようなのだが、それに比べて「島伝い便」はすごく時間がかかってしまうようだった。一瞬、「しまった!」と思ったのだが、よく考えると遊覧船に乗らなかった分、のんびりと船旅を楽しむ方が、むしろ面白いかも知れない。適当に来た船に乗ったわりには、いい感じだぞ!
 その後いくつも島を巡って、その都度、車と人を乗り降りさせながらのんびりと船旅は続き、1時間半後の15時ちょうどくらいにテチョン(大川)港へ到着した。


(韓国安眠島・大川旅行記2 了  韓国大川・武昌浦旅行記へ続く) 
 2005年8月13日

チケット売場なのかレジなのか・・・


船が来たぞ!


船旅・・・それぞれの青春 そして私は一人?


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