韓国武昌浦・馬耳山旅行記1

 --- 韓国安眠島・大川旅行記2からの続き ---


01フェリー 大川に到着

 フェリーが大川(テチョン)に到着したところで乗客は一斉に降りていき、僕もその流れに沿って上陸する。正面に見える大川の旅客船ターミナルは、ヨンモク港の旅客船ターミナルが小さな建物だったのに比べて、新しくて大きなもので正直びっくりしてしまった。これは力が入っている。しかも、人が多くて大変な賑わいだ。

 とりあえず地図やガイドブックを一切持っていない状況なので、ここが大川のどの辺にあるのか、 そして、市内やムチャンポ(武昌浦)に出るにはどうしたらいいのか、情報収集する必要がある。まずは、大川旅客船ターミナルに入ってインフォメーションを訪ねてみよう。
 そう思ってターミナルに入って驚いた。中はさらにものすごい人だったのだ。

 ターミナルの建物は結構広い空間が用意されていたのだが、それにもかかわらず家族連れなどの観光客によって空間という空間はすべて埋め尽くされていた。入口のドアの横も、ビニールシートを敷いた親子が寝転んでいるし、船乗り場付近は長蛇の列がとぐろを巻くように伸びていて、どこが先頭でどこが尻尾なのか、見当がつかないほどだったのだ。こりゃたまらん!場合によっては、ここから船で南下出来たらいいなぁ、なんて虫のいいことを思っていたのだが、そんなことは到底無理な相談のようだ。
 とりあえずここから脱出した方が良さそうなので、人を掻き分けながらインフォメーションまで進んでいき、ここからの船の便とバスの便を確認してみたのだが、船の便は離島便のみで、ここから南下していく船はないようだった。ま、それはバスが発達した韓国では当然のことなんだろう。市内に出るバスについては、ターミナルを出て左手にバス停があるから、そこから乗ってくれということだった。

 パンフレットだけもらってインフォメーションを後にし、教えてもらったバス停に向かって歩いて行こうとしたところ、目の前を座席バスが走り去っていく・・・・あれ? あれが市内に出るバスなのか・・・。

「おーい!」

 一瞬、対応が遅れたけど、あわててバスに向かって手を振りながら走っていったのだが、僕に気がついてくれなかったようで、そのバスはスピードを上げて走り去ってしまった。・・・・まずい。何分に一台の割合なんだろうか。田舎路線だし、10分間隔ってことはないな。良くて20分間隔で、下手したら1時間待ちだったりする。
 でも、夏季のシーズンということを考えると、それほど悲観的になることもないだろうと思い直してバス停に行ったのだが、炎天下にもかかわらず日陰が全くなかった。ああ、暑い。仕方ないので、路上駐車をしている車の横に身を寄せるようにして待っていると、若い高校生くらいの女性6名の集団が現れたのだが、同じく日陰がないなので僕と同じように車の陰に張り付くようにして待つことになってしまった。

 20分ほど待ったところでバスが現れたので、わらわらと駆け寄る。「大川の駅前まで行くんでしょうか?」と運転手に聞いてみたら、「行く」ということなので、運賃の1,300ウォンを払って乗り込んだ。エアコンが効いていて、生き返った感じがした。









韓国大川 フェリーの出口に殺到する人たち
フェリーの出口に殺到する人たち


大混乱の大川旅客船ターミナル
大混乱の大川旅客船ターミナル



韓国 安眠島大川武昌浦地図






バスの窓から見た大川海水浴場
バスの窓から見た大川海水浴場

大川海水浴場とは?
http://www.daechonbeach.or.kr/
長さが3.5km、幅100mに達する大型の白い砂浜で、砂浜南側に奇岩があって景色も面白い。水温も適当で気持ち良い海水浴を楽しむことができる。また傾斜がゆるくてかなりの遠浅海岸で、異物の混じらない砂浜で有名である。
ソウルから車を飛ばせば、2時間ほどで到達できる。

02大川海水浴場

 バスはそのまま山の中に向かうかと思いきや、しばらくしてまた海岸の方に向かって移動し始める。するとヨグアンやら食べ物屋が見えてきて、水着を着た人たちが道端を歩き始めた。道にある標識や看板などを見る限り、「大川海水浴場」に到着したようだった。
 駅前にそのまま行くのではなくて、大川海水浴場を経由するバスだったんだ。ううむ。安眠島のコッチ海水浴場もすばらしかったが、それ以上にここ大川海水浴場は街全体が活気に溢れていた。とにかく、店が多いのだ。

 コッチ海水浴場は海水浴場は広いけど、「岸壁と砂浜と海のみ」という感じで、食べ物屋とか旅館その他のいわゆる「施設関係」が充実してなかったのだが(逆にそれがいいという面はあるが)、この大川海水浴場は海岸に沿って大歓楽街が形成されていて、それが内陸部にまで広がっている感じだ。大学に併設されている「海洋訓練施設」みたいなものもあったりして、ハッキリ言って街の規模が比較にならないほど違っている。これは別の意味ですごい。今までいろんな韓国の海水浴場を訪問してきたのだが、この海水浴場が文句なしに最大規模といえるだろう。カンヌン(江陵)のキョンポデ(鏡浦台)も結構すごかったのだが、ここまでではないし、釜山のヘウンデ(海雲台)よりも砂浜の大きさ、街の規模ともに比較にならないほど大きい。レベルが全く違うのだ。

 「ここで降りてみようかな」と一瞬思ったのだが、やめておくことにした。先を急ぎたい気持ちが強かったし、一人旅にはちょっと寂しい感じがしたからだ。潮が引けば、コッチ海水浴場と同じく、ものすごく広い砂浜が楽しめるそうではあるが、それはいつか家族で来るときにとっておこうと思った。

 バスはしばらく海岸沿いの道を走っていたのだが、山側へちょっと曲がり、高速バスがたくさん駐車している広場へと入って行った。どうやら臨時のバスターミナルのようで、ソウルを始めとして、全州などの地方都市からの直行便が出ているようだ。広場に掲げられている横断幕を見てみると、「夏季特別運行開始!」「夏季シーズン 一日5便特別運行」などという文字が躍っているので、夏の海水浴場シーズンに限定して便があるらしい。ははあ、なるほど。この時期、暑くて混んでいて大変ではあるけど、バスの便に限って言えば一年で一番旅行しやすいシーズンなんだろう。

 バスはしばらくその広場で駐車していたが、またエンジン音を高くして出発した。


03大川・ポリョン市(保寧市)周辺

 大川海水浴場のバスターミナルを過ぎると、今までの海岸の喧騒とはうって変わって、のどかな田園風景が広がってくる。まだ実りの時期には少し早い青々とした田んぼを見ていると、なんだか眠くなってきてしまった。風が吹くたびに色を微妙に変えながら、まるで絨毯のような滑らかさを持った田んぼ。韓国もお米の国だなぁと、改めて感じる。同じお米の国でも、タイなどの東南アジアとは明らかに違う、日本と同じ匂いのする「うるち米の国」だ。

 うとうとしているうちにバスは市街地へと入っていき、都会へと逆戻りしてしまった。このまま乗っていけば大川の駅前まで行くわけだが、テジョン(大田)のインフォメーションでもらった地図を見直してみて、今まですごい勘違いをしていたことに気がついた。韓国国鉄の駅は「大川駅」だし、海水浴場は「大川海水浴場」だし、フェリーが着くのは「大川港」だったので、ここは「テチョン市」(大川市)であるとばかり考えていたのだが、地図をみる限りでは、この辺り一体は「ポリョン市」(保寧市)というらしい。じゃ、テチョン(大川)ってのはいったいなんなんだろう?ポリョン海水浴場もポリョン駅ってのもないし、これではポリョンの立場が全くないと思うんだけど・・・でも、なんだか訳がわからないがそういうもんのようだ。

 気がつくと進行方向の真正面(突き当たり)に駅が見えてきた。「大川」と書かれている。ここがテチョン(大川)駅なんだな。前のほうに歩いていって、運転手に「バスターミナルはこの先ですか? バスはターミナルまで行くんでしょうか?」と聞いてみると、「次だから座ってろ」と言われてしまったので、そのまま座って待っていると、バスはと並行している道を右に折れ、少し走ったところにある広場の中へ入っていった。バスがたくさん停まっており、どうやらここが終点のバスターミナルのようだ。


韓国 大川市外バスターミナル
大川市外バスターミナル

04大川駅前で警官にだまされる

 バスを降りて、平屋の粗末な市外ターミナル内部に入ってみると、一番奥に発券のブースが二つあり、簡単な待ち合わせ場所と時刻表などがあった。行き先表示を見ると、ここから近郊の各都市に移動できるようだ。もう夕方4時を回っているので、今日の宿をどこにするのかを具体的に決めなければならない時間帯になっており、ここが思案のしどころだ。
 とりあえず、僕はムチャンポ(武昌浦)海水浴場に行きたいと思っていた。天童よしみの「珍島物語」で有名になったチンド(珍島)と同じように、干潮時に海割れ現象が起こって対岸の島との間に道が出来る(陸続きになる)と言われているところで、前から目をつけていたのだ。だが、問題が二つほどあった。

 1.ここ大川からムチャンポ(武昌浦)に行く方法がよく分らない(市外バス利用?)
 2.もし行けたとしても、ムチャンポに着いた時点で時間切れになる可能性が高く、観光するためにもムチャンポで宿泊する必要がある。宿泊費のパガジ(ぼったくり)は当然あるだろうし、最悪の場合宿泊場所が確保できないということも、覚悟する必要があるだろう

ということだった。
 ここで今後の行動の選択肢としては、「ここ大川に宿を決めて、ムチャンポへは明日移動する」か「やはり、行ってしまう」のどちらかになるわけだが、いずれにしても「行き方」が分らない以上は判断のしようがないので、情報収集から始めることにした。とりあえず、バスターミナルの行き先表示板には「ムチャンポ」と書かれたものがなく、またインフォメーションのようなものもなかった。そうだ、さっき大川駅を通過したから、あそこまで戻ったら何か駅前インフォメーションのようなものがあるかもしれない。そこで聞いてみよう。

 そう思って、線路に沿うように歩いて駅に戻り、駅構内に入ってみたのだが、インフォメーションはなく、切符売り場と待合室があるだけだった。列車の時刻表を見てみるとチャンフン(長興)行きの急行ムグンファ号(無窮花号)がいくつかあって、どうやらそれを待っている人たちがわいわいと騒いでいた。暑いところを行軍してきて、ちょっと疲れも出てきて、なんだかめんどくさくなってきて、このままムグンファ号に乗ったろかと、一瞬、思ってしまった。チャンフンまで行くと、大河「クムガン」(錦江)をはさんだ対岸のクンサン(群山)への「渡し舟」に乗ることも出来るらしいし、それが結構情緒あるらしいって話しだし、ムチャンポに行ったとしても、海割れが見れるかどうかは分らないし・・・。ちなみにクムガン(錦江)は百済の都があったプヨ(扶余)へ繋がる河で、その昔、遣隋使の小野妹子もここから遡って百済の都へ移動したらしいのだ。そういうロマンも感じだれるところだし、ちょっとぐらぐらしてしまった。でも、ムチャンポへ行けるかどうか調べる努力はしてみないと、ただ安易な方向に流れてしまっては連れ合いに申し訳が立たない。まずはムチャンポ(武昌浦)だ。

 駅を出ると、広場の一角に派出所があった。中を覗くと二人の警官が暇そうに話をしているので、話し掛けてみた。

「すいません」

 警官はビクッとしてこちらを見た。

「あの、私ですね。日本から来たんですけど。その、ムチャンポ海水浴場に行きたいんですけど、ここからどうやって行ったらいいんでしょうか?」

 警官はちょっと驚いた表情でお互いの顔を見合わせたが、すぐに気を取り直して答えた。
「え? どこに行きたいって?」
「ムチャンポですよ。ムチャンポ海水浴場」
「ああ、ムチャンポ・・・ムチャンポ・・・」
「バスあります?」
「・・・ここから直接行くバスは・・・ないんじゃないかなぁ・・・」
「え? ないんですか?」
「う~ん・・・ないと思うよ」

 ちょっと待ってよ。直接行くバスがない??? この辺りで一番大きい街って大川だと思うし、ここから直接行けないとなると、どうやって行ったらいいんだ? そんなに行きにくい場所なのか? 確かに大川海水浴場に比べるとマイナーなのかも知れないけど、シーズンなのにそれはないだろう、と思ったけど、警官が言うことだしなぁ・・・。

 仕方ないので、お礼を言って派出所を出る。いや、しかし直接行けないとなると、どこかで乗り換えってことになるんだろうけど、地図を見る限り、一番近くにある「ウンチョン」(熊川)ぐらいしか思いつかなかったが、表示からするとかなり小さい街っぽい・・・。しかし、あれこれ考えていても始まらないので、とにかく熊川まで行ってみるとするか・・・となると市内バスではなくて、先ほどのターミナルから出ている市外バスに乗ることになるだろうから、またまたターミナルまで戻ることになってしまった。




大川市外バスターミナル内部
大川市外バスターミナル内部 かなりボロい


韓国 大川駅
大川駅



保寧市(ポリョンシ)とは?
保寧市のHP
1963年1月1日:大川面を大川邑に昇格
1983年2月15日:オチョン(鰲川)面サプシ(插矢)島里の中で外波水島、内波水島、外島を瑞山郡・安眠面の邑、鰲川面葛峴2里を蓮芝里に改称して周浦面に編入
1986年1月 1日:大川邑が大川市に昇格
1995年1月 1日:大川市と保寧郡が合併、保寧市が成立

世帯数:42,068世帯
総人口:107,475名
姉妹都市:神奈川県藤沢市、中国上海市青浦区、米国 ショアライン市、韓国忠清北道丹陽郡、韓国仁川広域市南洞区


もともと大川邑や大川市があったから、大川駅もあるし大川海水浴場もあるというわけなのだ。というか、私が初めて韓国に行ったときは、まだ大川市があったということになる。

なお、上の写真の大川駅は2005年当時のもので、2007年12月21日に長項線の改良工事竣工とともに移転しているのでご注意のほどを!
大川駅

05ムチャンポ(武昌浦)海水浴場への道

 また線路沿いに歩いてターミナルに戻り、バスチケットを購入しようとチケットブースの女性に声をかけてみた。

「あの、ムチャンポ(武昌浦)海水浴場に行きたいんですけど、ウンチョン(熊川)で乗り換えになるんですかね。ウンチョンまでの・・・・」
「ムチャンポ(武昌浦)海水浴場までですか?」
「ええ」
「それなら、ここではなくて、市内バスの利用になりますね」
「え? 市内バス・・・ですって?」
「ええ」
「ここから直接行くバスがあるんですか?」
「ええそうです。この前の道を駅のほうに向かっていって、駅の向こうの道沿いに乗り場がありますよ」

 こりゃ驚いた。やはりバスはあったんだ・・・。あの駅前派出所の警官のヤツ!!!ガセネタかよ!!! もう、警官なんだから適当なこと教えるなよ、ったくよぉ!
「駅まではなくて、駅の向こうですか?」
「そうです。このまま道をまっすぐ行ってください」
「わかりました。ありがとうございました」

 こういうことなら、最初からバスターミナルのチケット売りの女性に聞いておけばよかった。というか、よく考えたらインフォメーションで聞くよりも、実際にチケットを売っている女性の方がはるかに正確で有用な情報を持っているんだ。どうかしていた。チケットを買うかどうかわからないからただ聞くだけってのはどうかなと、ちょっと遠慮していた部分があるかもしれない。でも、どっちみち韓国語で会話するんだから、わざわざインフォメーションに行く必要は全くないんだ。これからは、ターミナルのチケット売りの女性に聞くことにしよう。
 女性に言われたとおり、またまた線路沿いに歩いて駅前まで戻る。そういえば、駅の向こう側には行ってなかったなぁ・・・。なんかターミナルのようなものがあるのだろうかと思いながら駅を過ぎてさらに歩いて行くと、ターミナルではなく、バスの時刻表が貼られているバラック小屋が両側の建物に挟まれるようにして建っていた。よく見るとおばちゃんが座っていて、チケットを売っているようだ。時刻表を見てみると・・・・あった。ムチャンポ(武昌浦)と表記されている。ビンゴだ。しかし、出発時刻を見てちょっと心が曇ってしまった。バスの本数が少ないようで、次のバスの出発が1時間後だったのだ。




武昌浦海水浴場とは?
http://www.muchangpo.or.kr/
1.5キロ先にあるソクテ島までの海が割れて道が繋がるという「神秘の海道」が体験できる場所。日本では珍島の海割れが有名だが、こちらもなかなかのものらしい。
また、珍島と同じようにお祭りがあるらしく、「神秘のパダッキル(海道)祝祭」は、旧暦半月と晦日に現れる「海道」に合わせて、7月中頃に開催されるらしい。芸能人たちの祝い公演、花火、腕相撲大会、民俗遊び、潮干狩り大会、たいまつオンパレードなどのアトラクションや、青少年全国ダンスコンテスト、のど自慢大会なども繰り広げられるらしい。(私はまだ行ったことはない)
 大川からムチャンポ(武昌浦)海水浴場まで1時間くらいかかるとして、現地到着は19時頃となるだろう。要するにそこで宿泊することが極めて濃厚ということなのだ。パガジ(ぼったくり)に遭うかも知れないしなぁ・・・。安眠島に入るときと同じ問題にぶち当たってしまった。そう思いながら時刻表の前でたたずんでいると、チケット売りのおばちゃんがこちらをじっと見ていたので、声をかけてみた。

「あの、ムチャンポ(武昌浦)行きのバスですが・・・」
「そこに書いとるじゃろ」おばさんは、時刻表のほうを指差して無愛想に言った。
「次のは1時間後くらいのヤツですよね」
「そうじゃね」
「・・・この便に乗ってムチャンポ(武昌浦)に行って、今日中に戻ってくるバスはあるんでしょうか?」
「乗って行ったバスが帰ってくるから、便はあると思うんじゃが」
「すぐに戻って行くってことですか?」
「そりゃわからん」

 おばさんはあくまで無愛想だった。次の武昌浦行き乗って、帰ってくることは可能ではあるようだが、タッチだけして帰ってくるのはあまりにも意味がない。安眠島に比べるとマイナーな場所だし、もうこれは行ってしまおうという気になった。男一人の旅だし、なるようになるだろう。
 そう決めたら、今日、まともにメシを食っていなかったことを思い出したので、バス乗り場横にあるキムパプ(韓国風海苔巻)の店に入り、ラーメンとキムパプを食べて腹ごしらえをする。その後、本屋などを覗いているうちに時間となったのでバス乗り場に戻り、おばちゃんからチケットを購入してバスに乗り込んだ。




キムパプ(韓国風のりまき)
一人で食事するとどうしてもこうなってしまう


06武昌浦海水浴場と豪快なおばちゃん

 バスはしばらくポリョン(保寧)市内を走っていたのだが、例によってすごい田舎の道へと繰り出していく。しばらく建物らしいものが見えないようなところを走っていたのだが、間もなくして小さな集落が現れてきた。どこの町なんだろうなと思っていると、バスが急に路地に入っていき、着いたところは「ウンチョン」(熊川)と書かれた看板の掛かった駅舎前だった。おお、もしかして、ウンチョンの駅なのか? 地図で見ていたときは気がつかなかったけど、鉄道が走っていたんだ・・・。しかし、そのわりにはものすごく小さな集落だ。
 バスがぐるっと180度回転して停まると、一組の親子連れがドカドカと乗り込んでくる。中年の夫婦にでっぷり太った高校生くらいの娘と小学生くらいの男の子だ。すごく軽装で、電車に乗ってここまできたんだろう。なるほど、ここウンチョンまで急行のムグンファ号(無窮花号)で来て、バスでムチャンポ海水浴場へ向かうという段取りか。なかなかピンポイントで動いている感じだ。

 バスは親子を乗せるとまた動き始め、再び田舎の道を走りに走って海岸へと到達した。どうやらここがムチャンポ海水浴場のようだ。大川海水浴場のような超大型海水浴場とは違って、小さくまとまった感じだ。海と並行して走る道に沿って宿泊施設や食べ物屋が並んでいるが、それも小規模なもので大きな建物はあまりなかった。ホテルというよりは民宿中心の海水浴場のようだ。

 どの辺りで降りたらいいのだろうか思いながらバスの中から外を眺めていると、横で先ほどの親子がバスの中にいた別の客とミンバク(民泊:民宿)を紹介してくれ云々という話をしているのが耳に入ってきた。ミンバクかぁ・・・と思って聞いていると、奥さんのほうがくるっとこっちを向いて話し掛けてきた。

「あんたも、今日はここで宿泊するんかいな?」
 いきなりのことでちょっと怯んでしまった。
「ええ、そうしようかなと思っているんですけど・・・」
「そうなん? この人がミンバクに案内してくれるって言ってるけど、どうする?」
「え? いや、泊まるかどうかまだ決めてませんし、一回りして決めようかと思ってるんですけど・・・」
「そうなん」

 おばちゃんはそう言うと、カカカカカと笑って、ちょうどバスが停まったところで怒涛のように降りていった。すごい肝っ玉かあさんだ。知らない人でも平気で話し掛けてくるってあたりが、とても韓国チックな感じだ。

 バスの運転手に「ここが終点でしょうか?」と聞くと、「次だ」というので、とりあえず最後まで乗ってみることにした。するとバスは走り出し、100メートルほどしたところで停まった。なんだ、ほとんど一緒のところじゃないか。というか、本来のバスの停留所がここで、さっきおばさんが下りていったあたりは、客が適当に止めたのかも知れない。

 しかし、終点だといわれて降りたところも特にバス停の表示があるわけではなくて、単なる食堂の前だった。しかも、大川行きバスの出発時刻がコピー用紙のようなぺらぺらの紙にマジックで殴り書きされて、ジュースの自動販売機の側面にセロテープで貼られているという状態だ。なんという表示方法だ・・・・。しかし、これで帰りのバスの時刻は確認できる。どうやら終バスが20時30分にあるようで、現在の時刻は19時ちょうど。つまり一時間半の余裕があるということだ。その間に宿泊場所を探してみて、部屋が全くない場合は大川に帰るとしよう。帰る当てができて少し気が楽になった。(あとで写真を見てみると、バス停表示があった!気がつかなかった)




韓国市外バス 大川発武昌浦行き
バスに乗り込んだ

武昌浦海水浴場のバス停(終点)
武昌浦海水浴場のバス停(終点)


マジックで書き殴られた「バス時間表」
なんということだ!
しかし、熊川-大川行きは6時40分からある!

07武昌浦海水浴場を散策

 海岸線と平行に走っているバス道を戻ってみると、先ほど車窓から見たとおり宿泊施設がたくさん並んでいた。とりあえず、海岸に出てみようと思い、直角に道を折れていくと、すぐに海岸についた。親子連れや若者たちが、砂浜に思い思いに寝そべったり遊んだり泳いだりしていた。安眠島のコッチ海水浴場などと比べると格段に小さい海岸だが、逆にアットホームなのほほんとした雰囲気が漂っていて、のんびりするにはムチャンポ(武昌浦)の方がいいような感じだ。海上には小さな島がぽっかり浮いていて、おそらくあの島と「神秘の海道」が出来て繋がるのだろう。なるほど・・・。

 しばらく海風に当たっていたのだが、気を取り直して海岸にそって歩いてみると、「コンド式ミンバク」「コンド型ミンバク」という、わけの分らない宿泊施設がやたらと目に付いて、トレンドになっているような感じだった。「ミンバク」(民泊)は「民宿」という意味なのでそれはそれでいいのだが、「コンド式ミンバク」とは・・・。
 韓国語の「コンド」は、「キッチン付のマンションタイプの貸し部屋」というような意味だ。英語の「コンドミニアム」(condominium)を略したものだと思うのだが、英語のcondominiumは分譲マンションや分譲アパートを指すのだから、この時点で既に本来の意味からずれている。にもかかわらず、さらに「コンド式ミンバク」(コンドミニアム式民宿)と来たわけだ。つまり「分譲マンション式民宿」ってことになるんだけど、ま、言いたいことは分らなくはないが、それは「既に民宿ではないんじゃないか」と突っ込みを入れてしまうのは、僕だけなのだろうか?

 その新しい(?)宿泊施設の横には、カラオケやPC房(ネットカフェ)、コンビニなどもあり、適正な値段で宿が確保できれば、日用品の確保、情報収集等に問題はなさそうなのだが、そんな都合のいい宿泊施設なんてものがあるんだろうか・・・。

 ところで、その宿泊施設と同時にすごく気になっていたことがあった。ここまであえて触れていなかったのだが、ここに来た目的「海割れがいつ起こるか」だ。

 海割れが起こるという話だけを便りにここに来たけど、毎日起こっているもんでもないだろうし、時期と時間が限定されている話だ。ま、ダメならダメでいいんだけど・・・。そう思いながら歩いているとちょうどジュースを売っている屋台があったので、おばちゃんに聞いてみることにした。

「あの、ここは海割れで有名だって聞いてきたんですけど、いつ割れるんでしょうか?」
「海割れ? 来週来な!」即答だった。
「来週・・・ですか?」
「ああ、今週は割れないね」
「そ、そうですか・・・ところで、つながるのはあの島ですか?」
 そう言いながら沖合にある島を指差してみる。
「そうだね」
「ありがとうございました」

 そう言いながら、そそくさと退散するしかなかった。ま、運がよければ見えるかと思ったけど、それなら仕方がない。いつかまた来る機会があったら、見ればいい。そう思いながら空を見上げると、お月様が出ていた。半月だった。こりゃだめだ。

 潮の満ち引きは新月と満月のとき(大潮)に最大になるわけだから、一番条件の悪いときに来てしまったわけだ。でも、コッチ海水浴場の海の引きぶりというか、砂浜の広さからして、なんとなく「新月か満月のような気分」になっていたんだけど、ということは、大潮のときはもっともっと引き潮になるってことなんだろうか・・・それはそれですごいかも知れない。
 では、気を引き締めなおして宿探しをしよう。海岸沿いにある宿は高そうなのでパスすることにして、バス通りよりも山側の民宿を探してみることにした。




夕方の韓国・武昌浦海水浴場
夕方の武昌浦海水浴場
この写真の右側に小さく見えているのが繋がる島


武昌浦海岸で遊ぶ人々
海岸で遊ぶ人々


韓国・武昌浦海水浴場
海岸沿いの店 PC房が見える

08韓国のバンガロー

 一旦、バス通りまで戻り、道に沿って歩いていくと、このあたりにある建物は基本的にすべて宿泊施設を兼ねていると思ってよかった。海水浴場と関係ない普通の民家がないというような感じだ。ということで、目ぼしいところに声をかけてみたのだが、予想通り「満室だから」という答えが返ってくる。次の民宿も満室だ。これは困った。

 そこからさらに山側に行くと「バンガルロ」(バンガロー)と横断幕が掲げられているところが見えてきた。近づいてみると、なんとバスに乗っていたあの親子(中年夫婦+でっぷり女子高生+小学生男子)がバンガローの管理をしていると思われる中学生くらいの女の子と値段交渉をしているところだった。僕が親子連れに近づいていくと、おばさんが「あら、また会ったね」と声をかけてきた。

「あんた、まだ、宿決まっとらんの?」おばさんがさらに言葉をつないだ。
「ええ、まだなんですけど、ここ、空きがあるんでしょうか?」
「あるある。それに、安いから。一部屋30,000ウォンやって。あんたもここにしとき。だって、他のとこいろいろ聞いてきたけど、60,000とかひどいところは120,000ウォンやって、ぼったくりやで、ほんと、それにもう部屋はないで、他所は。ここに決めた方がええって」
「そうですよね」
「あんた、ウリナラサラム(韓国人)やないね。悪いこと言わんから、ここにしとき」
「そうですね、日本から来たんですよ」
「ふふん、そんな感じやね」
「ここにします。ありがとうございました」

 確かに安いと思ったし、要するに寝るだけなんだから部屋が確保できるだけで御の字だった。
 その女子中学生っぽい管理人に言って部屋を見せてもらうと、コンテナのような正立方体の箱がデンと置かれているといった感じのもので、広さは4畳半ほどだった。入口があって、窓が2ヶ所。布団がたたんで置かれている他は、調度品類などは全くなかった。頭の中に「は~~~ぁるばる、来たぜ、箱だけぇ~~~~」と北島三郎の「函館の女」の替え歌がリフレインする。ほんと、箱だけだ。

 管理人の女の子にお金を払って、鍵をもらい、荷物を置いてごろっと横になってみた。ふう。今日も朝から激しく移動してきたので、ちょっと疲れてしまった。大川の本屋で買った旅行本などをパラパラめくりながら少し休憩して外に出ると、女子中学生管理人が同じくらいの男の子とじゃれあっていた。トイレの位置とシャワーなどの使い方を聞いてみると、トイレは共同でぽっとん式だった。ちょっと汚かったが、30,000ウォンだから文句は言えない。その横には水シャワーの簡易施設などがあり、歯磨きなどもここでするようだ。なるほど、了解だ。
 一通り説明を聞いてから、本人の写真を撮らせてもらえないかと依頼してみると、最初は「だめですよ」と断っていたが、男の子と一緒にということで一枚撮らせてもらった。




正面に「ポリョンバンガロ」の横断幕が!


一つ一つが個室でバンガローなのだ


いろいろと世話をしてくれた
管理人の女の子と男の子

09武昌浦海水浴場の管理事務所

 20時近くになってはいたが、まだ外は明るかったので、その足で海岸の方に繰り出していく。海岸線まで出て行くと、パラパラと人がいて、まだ海に入っている人もいた。しかし、太陽はすでに沈んだようだ。空の端のほうが明るいが、間もなく夜の帳が下りてくるのだろう。靴を脱いで海に入ってみると、ちょっぴり冷たかった。しかし、コッチ海水浴場のときも思ったのだが、海水浴場には一人で来るもんじゃない。ここはさっさと退散することにした。

 海岸から食べ物屋の並ぶ岸壁沿いの道まで戻り、道に沿ってまた歩いてみる。この海水浴場はコッチ海水浴場などと違って狭いから、端から端まで歩いても知れているのだ。

 海岸沿いに歩いていくと、先ほど見た「コンド式ミンバク」の他にも「バンガルロ」(バンガロー)がたくさんあるようだった。僕が今回泊まった「バンガルロ」は4畳半ほどの大きさの「箱だけ」だったのだが、海岸沿いにあるやつはもっと小さな「箱だけ」だった。日本のバンガローのように繋がっているのではなく、独立した「箱だけ」という形態の宿泊施設を韓国では「バンガルロ」と呼ぶようだ。その他、海岸の一番端にはミニ遊園地があって、韓国名物の「タガダ」が設置されていた。そして、その先には海岸からは少し離れるが道が繋がっていて、その先にも旅館やミンバクがたくさんあるようだった。

 端まで来たのでまた中心部に向かって戻っていくと、海水浴場の管理事務所のようなところがあったので、ついでに寄って見ることにした。
 ガラスドアを開けて中に入ってみると、初老のおじさんと中年のおばさんが、ソファーに座って話をしているところだった。

「あのですね。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、よろしいでしょうか?」
「お? 何かね? ま、こっちに来て座りなさい」

 おじさんがソファーの方に手招きしたので、呼ばれることにした。僕がおじさんの横に腰掛けると、おじさんが言葉を続けた。
「聞きたいことって?」
「・・・あの、ムチャンポ海水浴場って、海割れで有名だって聞いて日本からやってきたんですけど、今日は割れないみたいですね・・・」
「あ、そうじゃね。来週、そうだね、21日から23日くらいが次の海割れの日かな。ちょっと早かったみたいじゃね」
「やはりそうなんですか。ところで、割れるときはあんなふうに割れるんですか?」
 僕は事務所の中に飾られていた大きな写真を指差しながら聞いてみた。写真は海が大きく割れて、たくさんの人が島に向かって歩いているところだった。

「そうじゃね」
「あんなに、ぱかっと?」
「そうじゃよ」
「そうですか。それで反対に、明日は全く割れないんでしょうか? 少しだけ道が出来るとか」
「いや、全く割れないね。道も全く出ないよ。今の状態と変わらないね」
「はあ、そうですか」
 少しがっかりした表情をしたのか、おじさんは横にあった朝鮮人参ドリンクを取り出した。
「これ、飲むかね」
「はい、ありがとうございます」

 くれるというのは断らない主義だ。ありがたくいただいてゴキュゴキュッと飲み干した。そして、さらに雑談をしていると、女子大生3人組が事務所に入ってきたので、その3人とおじさん、おばさん、僕の6人でさらに雑談をしたのだが、切りのいいところで事務所を後にすることにした。

 海割れが見られないにしても、少しくらいはその片鱗が感じられるかと思ったのだが、全く道らしきものが見えないというのであれば、ここに長居する必要もないだろう。明朝早くに出立することにしよう。




暮れようとする武昌浦海水浴場(韓国)
暮れようとする武昌浦海水浴場


暮れようとする武昌浦海水浴場(韓国)繋がる島
向こうに見える島と繋がるらしい



ぽっかり浮かぶ半月

10明日の予定

 そうと決まれば、PC房に入って掲示板めぐりをしてから、明日の情報収集をすることにした。
 ムチャンポ(武昌浦)海水浴場唯一と思われるそのPC房は、建物の1階にゆったりとしたスペースで設置されていた。都会のPC房が大抵の場合ビルの上階にあるのにくらべると、贅沢な造りだ。店の主人に「日本語を入力できるようにシステムを追加するけど、いいですよね」と断った上で、日本語入力ツールを設定する。このPC房は「韓国語IME」(韓国語入力ツール)に変な設定変更や使用制限をしていなかったので、作業は2分ほどで終了し、日本語入力が出来るようになった。それで、いくつかの海外旅行関係掲示板に旅行の報告を日本語で書き込み、一巡したところで明日の予定を決めることにした。

 その予定を決めるに当たって、いくつかの条件と希望があった。

 これらの条件をすべて込めたスケジュールは、以下のとおりだ。


 大まかなスケジュールが決まったところで明日の観光場所だが、ムチャンポ(武昌浦)から移動も含めて半日くらいで観光が出来るところとなると、上記のとおり忠清南道か全羅南道のどこかになるのだが、僕にはすでに腹案があった。「マイサン」(馬耳山)か「テドゥンサン」(大屯山)のどちらかにしようと思っていたのだ。もちろん、「クムガン」(錦江)の河口を見にチャンフン(長興)や「クンサン」(郡山)に行くという選択肢もあるのだが、少し海岸から離れてみようかという気になっていたのだ。海岸沿いはちょっと人が多すぎて人酔いしそうな感じもするし、今回はもうお腹いっぱい、という感じだったのだ。
 馬耳山も大屯山も韓国を代表する風光明媚な山で、どちらかというとシーズンは秋の紅葉を迎える頃になるのだが、この地域にそう再々来られるわけでもなく、せっかくのこの機を逃す手はない。前から気になっていたし、ここは海岸線南下という予定を変更して、内陸へと舵を取ろう。しかし、問題は、登山観光にどのくらいの時間がかかるのかということで、今回は短時間で回れる方を選ぼうと思った。

 そう思いながらインターネットの情報サイトでいろいろ調べたところ、大屯山の方が時間をじっくりかけて回るべきところのように思えたので、今回は馬耳山に行くことにした。馬耳山本体は岩山で登れないそうなので、頂上までかなりある大屯山に比べると短時間で済みそうだったからだ。

 そう決めてから馬耳山へのアプローチも調べてみると、ヂナン(鎮安)という小さな街から馬耳山の麓までバスが出ているとのこと。では、ムチャンポからその鎮安にどのように行くかだが、全州から鎮安まで市外バスが出ているようなので、ムチャンポから大川に戻って、大川から全州経由で鎮安に入るという方法が現実的のようだ。
 馬耳山観光をしたあと、予定ではなるべく釜山寄りに移動ということだが、それは馬耳山観光が実際どのくらいかかるかによって変わるので、状況を見ながら出たとこ勝負にすることにした。
 明日の行き先が決まったところでPC房を出て、コンビニでおやつなどを購入して宿に戻った。武昌浦に来る前に食事はとっていたので、もうお腹はいっぱいだったからだ。大川で買った韓国語の本などを読みながらゴロゴロしているうちに眠たくなってきたので、就寝した。



(韓国武昌浦・馬耳山旅行記1 了) 2005年8月13日



韓国武昌浦海水浴場のバンガローの部屋
バンガローの部屋(朝撮影)


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