パイザの韓国旅行記

韓国馬金山温泉旅行記(完結編)

--- 韓国武昌浦・馬耳山旅行記2からの続き ---



01馬山へ移動するのだ

 今日は、マグムサン(馬金山)温泉を訪問する予定なので、まずは今いるテグ(大邱)からマサン(馬山)に移動しなければならない。マサン(馬山)市内で「市内バス」に乗る必要があるからだ。

 マサン(馬山)の路線バスについては、既に昨日の夜にインターネットで調べてある。「マサン(馬山)市外バスターミナル/チャンウォン(昌原)駅から21-1、21-2、21-3、90、90-2、390番の路線バスを利用。馬金山温泉観光地下車」ということだった。しかし、マサンとチャンウォン駅の関係が今ひとつ分からなかった。スラッシュでひとくくりにしているということは、恐らく隣接しているのだろう。でも、馬山市があるのは知っていたのだが、昌原市なるものが存在しているのかよく分からなかったし、或いは馬山市の中に昌原という地域があるのかも知れない。何だか腹の中にすとんと落ちなかったのだが、要するに馬金山温泉に行くバスは、すべてがマサン市外バスターミナルとチャンウォン駅の両方を通過すると単純に考えればいいのだ。そのあたりはケセラセラで行くことにする。

 早起きして8時発のマサン行きに乗るべくヨグアン(旅館)を出て、大邱西部バスターミナルに向かうと、ターミナル内は思ったよりは人が少なかったのだが、それでもそれなりに混んでいた。今日も暑い一日になりそうな気配だった。

 早速、窓口に行ってお姉さんに「マサン行きを一人分ください」とお願いすると、「自動販売機で買ってください」と言われてしまう。なるほど、本数の多い路線はそうするってことなのだ。しかし、窓口販売ではなく機械から買うのは、何だかちょっと寂しい気がする。もしかして、今後、どんどん自動化されていくのかも知れないし、時代の波なのだろうか。便利になるけど、ノスタルジーは少なくなっていく。仕方がないことなのだろうけど・・・などと思いながら自動販売機に移動して、マサンのボタンを探して押す。チケットがカタカタっと音をたてて発券される。吐き出された紙を手にとって眺めてみたが、やはり便利だけれど何か旅情が足りない気がした。値段は5,400ウォンだった。

 バスに乗り込むと、席は半分ほどが埋まっていたので、真ん中あたりの席を見つけて座る。どうもエアコンがまともに効いていないようで、もあっとした空気が体を包む。今日の移動も厳しいかな、などと思っているうちに出発となった。

 バスが動き出したところで、突然、斜め前に座っていた女性が「アジョシー シウォナン パラム チョム トロジョ チュイソ!」(おじさん、涼しい風をちょっと出しておくんなまし)と叫んだ。おお!きたーーー!こりゃ、「慶尚道のサトゥリ」(慶尚道方言)ではないか!遂に慶尚道地域に来たんだという実感が湧く。これだよ、これ。これが旅情ってもんだ。なんだかその訛りに訛ったイントネーションが、たまらなくいいのである。ああ、旅している。そういう実感に浸ることができるのだ。自販機の件で沈んでいた気持ちが一気に浮き上がってくる。

 バスの運転手が「イェ~」と返事をすると、間もなくして天井の送風口からコーッと冷気が出だした。ふう。一息つく。そして、バスは順調に走り、9時過ぎにマサン(馬山)に到着した。なかなかいいペースである。













大邱で宿泊したヨグアン さて出発だ




大邱西部バスターミナル
馬山・昌原行きバス乗り場

02馬金山温泉への市外バス

 マサン(馬山)市外バスターミナルは、少し閑散としていた。今までものすごく人が多いところばかり(安眠島にしても、大川にしても、馬耳山にしても)通ってきたのでそう感じるのかも知れないが、本当に「地方」という感じがする。或いは、この時期のツーリズムから外れているのかも知れない。韓国国内での偏りを感じる場面だ。ターミナルの外に出てみても、特に特徴的なものはなく、一体自分がどこにいるのか分からなくなってしまうくらい、没個性的だった。韓国の田舎はどこも本当に良く似ている。
 ターミナルの前にバス乗場がいくつか見えたので、番号を確認しつつ路線を見てみる。なるほど。事前のネット情報のとおり、21番バス路線図の終点あたりに「マグムサンオンチョン(馬金山温泉)」と書かれており、これに乗れば馬金山温泉に行くって寸法のようだ。これは簡単である。

 程なくしてバスがきたので、念のため運転手に行き先を確認してから乗り込む。バスの中はそこそこ混んでいたので、座ることが出来なかった。バス内部には「バス停の名前/路線図」があったので、その場所まで移動し、その図とバスのアナウンスを比較しながら現在の位置を確認しつつ、吊革につかまりながら外の様子を窺った。どうやら順調に馬金山温泉に向かっているようだった。

 そのうちバスはチャンウォン(昌原)駅に差し掛かる。路線図どおりだ。チャンウォン駅の姿が、バスの窓越しに見える。少し前のスタンダード型で、現在ではちょっと古くなったフォルムをしていた。詳細を確認する間もなく、それもあっという間に車窓から消えていく。そのバスの動きは、まるで韓国の変わり行くスピードそのものだった。
 さらにバスは走り、だんだんと田舎の山道を進んでいく。そして、おそらく「温泉ホテル?」と思われる建物の前にとまったところで運転手に確認すると、「温泉はここだ」というのでバスを降りた。どうやら「マグムサン(馬金山)温泉」に到着したようだった。



馬山市外バスターミナル
少し閑散としていた


バスにて移動


03馬金山温泉の周辺を散策?!

 道端からさっきまで乗っていたバスの行き先を目で追っていると、少し先のカーブを右に曲がって行って、その道の突き当たりで止まってしまった。どうやらそこが「どん詰まり」のようだった。今までの経験からすると、多分、あのどん詰まりのところがバスの始発場所で、出発時間の少し前に現れるか、もしくは「折り返し」でマサンの方に帰っていくはずだ。手前でバスを降りていてなんなのだが、あとであの折り返し地点まで歩いて行って、帰りのバスの本数などを確認しておく必要があるかなと思った。そのどん詰まりの先は青々とした田んぼが一面に広がっていて、そのさらに先には黒々とした山が折重なるように佇んでいた。そして一番遠くに澄んだ青空がただ広がっていたのである。韓国の田舎の原風景がそこに広がっていた。

 まだ朝だったので、風呂に入る前にこのあたりを一回り歩いてみることにした。
 まずはバスを降りた地点にそびえ立っているホテルだ。壁には「マグムサンウォンタン」とかかれていた。「マグムサン(馬金山)」が緑色で、「ウォンタン」が赤色だった。「ウォンタン」かあ。単純に考えると「原湯」或いは「元湯」という字があてられると思うのだが、さて。どちらも発音は同じだし、似たような意味だし、恐らく「ここがオリジナルなのだ」と言いたいのだろう。或いは「温泉水を使っている」と言いたいのか。

 そこから少し奥に歩いていくと、先ほどバスが曲がっていったあたりに、ビーチパラソルを立てた露天の物売りおばちゃんたちが、何人か陣取っていた。なにか茶色い色の液体を巨大なたらいで作った上で、ペットボトルに入れて売っていた。何かの漢方薬だろうか?そして、その道の先には、先ほど私が乗ってきたバスが向きを180度変え、こちらを向いてとまっていた。なるほど。予想通りだ。

 その交差点からバスと反対方向に目を投じると、上り坂があって、その先にもいくつか建物がたっているのが見えた。何かと思って坂を登ってみると、いずれも食べ物屋だったのだが、まだ営業していなかった。恐らく昼以降に開店するのだろう。そして、特にそれ以外は何もなかったのである。

 元に戻ってきて、バスの方向に向かって歩いていく。両側には建物はなく、ただ道があるだけだった。そしてバスまで到達する。バス停にはバス路線は書かれていたが、発着時刻は書かれていなかった。ま、時間はたっぷりあるし、特に気にする必要はないだろう。

 そこから先ほどのバス道と並行している道をマサン方面に向かって戻ってみると、広い荒地の間にポツリポツリと歯抜けのようにホテルがいくつか建っていた。しかも、なんだかラブホのようなものばかりで、いわゆる日本の温泉宿のような情緒は皆無だった。しかも、ここまで来る間に「人とすれ違うこと」がなかったのである。そう、この馬金山温泉は、寂れまくっていたのである。もちろん、朝早いからかも知れないが、それにしても人がいない。そして、温泉街のようなものも当然のことながら、なかったのである。



何もないぞ!


,馬金山ウォンタン


結局、その液体が何なのか聞くのを忘れた。。。


04馬金山温泉に入ってみる

 結局、ぐるっと一周してきて、先ほどバスを降りた「マグムサンウォンタン」付近が比較的開けている地域のようで、温泉を入るにしても、メシを食うにしても、このあたりで事足りるようだった。それにしても、ラブホのようなホテルがぽつぽつとあるおかげで、この温泉は本当に中途半端なものになっている気がした。それらホテルがなければ、本当に田舎の山の中にポツリと温泉ホテルが建っているという風情なのだが、そうではない。しかも、歯抜けのように建っているところが、よけいに中途半端さを演出しているのだ。一言で言うと「開発しようと土地を整備したけど、進出企業がなくて頓挫」という感じに見えて仕方ないのだ。これだけ閑散としているのだから、これ以上、ホテルを建てても採算が取れるようには見えない。やはり、午前中だから?なのだろうか。何だか心配になってきた。

 特に観光するところもなさそうだし、観光案内所も当然のことながらないし、原点に戻って温泉に入ることにした。

 問題は「どこに入るか」なのであるが、ここは定石どおり謎の液体を売っている露天商のおばちゃんに意見を求めてみたところ、「どのホテルもテジュンタン(大衆湯:外湯のこと)はあるよ。ところで、あんたは日本人かね?この温泉は、日本人が開発したっての、知っとるかね?」と逆に質問されてしまった。そう言えば、ネットで調べたときにそんな話が載っていたような気がする。日本の統治時代に温泉施設を建てたとか、そういう話だ。「はあ、そうみたいですね」と答えると、おばちゃんはにやっと笑ったままそれ以上何も言わなかった。地元の人はどう思っているのだろうか?

 ということなので、結局、「マグムサンウォンタン」(馬金山元湯?)に行くことにした。階段を上って建物に入ると受付があって、若い女性が座っていた。私の他にもちらほらと客がいて、思ったよりは活気があるようだった。もしかしたら、「徒歩者」は少ないが、「車できている観光客」は、それなりにいるのかも知れない。少なくとも建物中にはそれなりに人がいるようだった。

 料金表を見ると「一般 4,000ウォン、6歳以下 2,000ウォン、家族湯 20,000ウォン」と書かれていた。地下が女湯で、2階が男湯、3階が家族湯のようだ。家族湯があるとは驚いた。やはり韓国人も家族みんなでお風呂に入りたいと思うんだ、というのが妙に新鮮だったのだ。
 「貴重品はフロントに預けてください」と書かれていたので、パスポートなどの貴重品を預けて入ることにする。それで、フロントのお姉さんと少し会話したのだが、日本人だと分かると、珍しそうにしていた。こうやってふらっと来る人はあまりいないのかも知れない。お金も払って脱衣場に向かった。

 お風呂はというと、少し大きめのお風呂屋という感じだった。しかし、シャワー施設などがたくさんあって、ゆったりと入ることが出来た。また、風呂の壁に「日本人が開発していった経緯」などが書かれていて、そのあたりがお風呂屋ではなく温泉、という雰囲気を出してくれる。しかし、お湯については特にどうと言うことはなかった。それは、日本の温泉でも同じことなのだが。

 温泉から上がって、先ほどのフロントに戻って貴重品を返してもらった。お風呂屋さんに行くときなどは、貴重品をロッカーに入れたままだと、何か不安になってしまうものだが、こういうように預けることができると、かなり心理的不安は軽減される。やはり、温泉はゆったりとした気持ちで入りたいからだ。

 お姉さんとまた少しお話をしたので、記念に「写真をとってもいいでしょうか?」と聞いてみると、照れながらも何とか応じていただくことが出来た。




要するにこんな感じだ(中央に馬金山ウォンタン)



馬金山ウォンタンの受付



受付のおねえさん

05東萊鄭氏北面宗親會

 温泉を出たところで、ここ馬金山温泉でやることは終わったようだ。また、バスでマサン(馬山)に帰ることにしよう。

 そう思いながらバス通りを歩いていると、道沿いの食堂に掲げられている看板に、ふと目が止まってしまった。その看板には「東萊鄭氏北面宗親會」と漢字で書かれていた。東萊鄭氏と言えば、連れ合いの母方の氏族である。(私の連れ合いは韓国人なのである)ちょっと興味がわいてきたし、お腹もすいてきたので寄ってみることにした。そう言えば、今日はまだまともなメシを食べていなかったのだ。入口のガラスには「チュオタン専門」と書かれている。チュオタンでも食べるか・・・と思いながら、ドアを開けた。

 店の中には、お客が一組いるだけだった。50代から60代だと思われるおじさん二人で、大きな声で話をしていた。食事はもう終わっているようで、テーブルには空になったパンチャン(おかず類)の皿が、並べられているだけだった。

 私はその少し横のテーブルについて、店の中を見てみた。店の半分は座敷席で、半分はテーブル席だった。程なくして主人と思われる短パン姿の男性が現れたので、チュオタン(どじょう鍋)を注文する。主人は注文を聞くと奥に入っていった。そして先客二人が席を立ち、残された客は私だけになってしまった。

 しばらくして銀色の大きなお盆にチュオタン、コンギパプ(ご飯)、そしてたくさんのパンチャンがこぼれんばかりにのせられてテーブルまで運ばれてきた。キムチ類だけでも何種類もある。これはうまそうだ。匂いも食欲をそそる。そして実際、食べてみると、これが本当に美味しかった。パンチャンもかなりいただき、お腹も大満足だった。そして、タイミングを見て主人に話を切り出してみた。

 主人に「私が日本から来たこと。私の連れ合いの母方が東萊鄭氏であること」などを告げると、大変驚いていた。そして、いろいろ教えてくれたのである。

 「東萊鄭氏」は、もともと「東萊」というくらいだから釜山近辺が母体になるのだが、このマグムサン温泉地域にもその一族が多数いるらしい。この主人のお店は少し前からこの場所あるし、お店と言うことでたくさんの人も集まりやすいことから、一族の集会場として利用してもらっているとのことだった。この地域は「北面」と呼ばれている地域で、この「面」(日本でいう町内くらいの地域)の人たちが集まるようになっている。面ごとに集会場が用意されているようで、年に1回は大きな集まりがある。他の面の状況はよくわからないが、派がいろいろあるらしい、というようなことだった。なるほど派閥があるのか・・・。

 そのあと、「ところで、温泉には入ったのか?」と聞かれたので、「マグムサンウォンタン」に入ったことを話すと、「それもいいんだけど、一番古い温泉があるんだが、それを見ていった方がいいんじゃないか?」と教えてくれた。「古い温泉?」と聞き返すと、「ちょうどこの店の裏手にあるんだよ。チャヨンオンチョン(恐らく「自然温泉」)と書かれているので、すぐに分かるよ」ということだった。

 なるほど。それは見ておいた方が良さそうだ。その後、しばらく談笑した後、礼を言って店を後にした。




東萊鄭氏北面宗親會の看板のかかる店



チュオタン



店のご主人とお母様


06自然温泉のオヤジとの邂逅

 チャヨンオンチョン(自然温泉)はすぐに見つかった。しかし、いろいろ歩き回って見たつもりだったが、この建物は見逃していたようだ。平屋建てなのか二階建てなのかわからないが、とにかく白く横に細長い不思議な建物で、建物自体はものすごく古そうなのだが、最近、ペンキを塗りなおしたという感じだった。屋根に「チャヨンオンチョン」という大きな看板が掲げられており、その横には「クリジアンヌン チンチャ 100%ウォンエク オンチョンス・カジョクルム」(沸かしていない本当の100%原液温泉水・家族ルーム)と書かれていた。なるほど、馬耳山温泉最古、オリジナルだという意気込みに溢れている看板だ。しかし前述のとおり、壁を白くきれいに塗ってはいるものの、造り自体がかなり古ぼけた印象なので、寂れた感は否めなかった。要するに中途半端なのだ。これでは高級志向の若い韓国人にはアピールしないだろうなと思ってしまう。

 そう考えると、この馬金山温泉は、万事、中途半端だ。こうしてみると同じ「寂れた感」「寂び」(或いは侘び)といえるものでも、「計算され、演出された寂び」には、それなりに投資が必要なんだなと感じてしまう。「意図的ではなく、漏れ出た寂び」とは決定的に違う何かがあるのだろう。ああ、でもそういうのは、決して嫌いではないのであるが。

 いずれにしても、この中途半端さを象徴するのが、この「チャヨンオンチョン」なのであろう。しかし、今後、あの歯抜けの空き地にホテルが林立し、一大レジャーランドになったとしても、この微妙な味は残してほしいなと思うのである。なぜなら何かもう一つ工夫すれば、もっと面白い存在になりそうな気配も一方ではあるからだ。

 あの歯抜けの場所に何か建つとしても、おそらくラブホ的なものになるに違いない。そして、気がついたら何の統一感もないただの没個性的韓国の田舎街になってしまう。ちょっと見ただけでは、馬山バスターミナル周辺のラブホ街と区別がつかないだろうことは、容易に想像できる。そうなってくると、逆にこの「チャヨンオンチョン」はその街にあって、なにか特別な存在に変化する可能性を秘めているように思うのだ。逆転化ともいえる。今はこの街の中途半端さの象徴でありながら、回りの変化で場合によっては勝手にアバンギャルドな存在に化けていく可能性があるという感じだ。そのどちらにも転びそうな微妙さが面白い。実に面白いのだ。韓国の田舎旅のある意味、醍醐味とも言えるものである。

 そんなことを考えていると、中から主人が出てきた。中年から初老にかけての年齢で、ひょろっと背が高かった。薄手の半袖カッターシャツの首のボタンを大きく開けて、ベージュのスラックスをはいていた。ギョロッとした目でこっちを見ると、「見てないで中に入ったらどうだ」と声をかけてきた。

 「イ、イェー」と返事して、言われるままに中に入る。三角屋根の入口から建物の中に入ると、正面に韓国式旅館と同じような管理人控室と窓口があり、温泉に入りに来た人は、ここでお金を払う仕組みになっているらしかった。日陰に入ると少し暑さが和らぐかと思ったが、建物の中ももわっとした熱気でいっぱいだった。「温泉に入りに来たのか?」と主人が聞くので、「あの、もう、温泉には入ってしまったんですよ。それで帰りがけに食事をとっていたら、その店でこの温泉のことを教えてもらったので、見に来たのです。一番古い温泉だということで」と正直に答えると、「お?そうなのか」と私の答えに主人は興味を持ったようだった。「どうだ、もう一回入るか? ここは100%温泉水だぞ?」と畳み掛けてきたのだが、正直言ってあまり入りたいとは思わなかった。そこで「そうですね。でも、もう入ってしまったし、時間がなくて難しいのです。すいません」というと、「いや、いいんだよ」と主人はあっさりと引き下がってしまった。いやにあっさりしている。

 しかし、次の主人の言葉に少々驚いた。
 「じゃ、中を見ていったらどうかね。そうだな、あの部屋が空いてる」と言いながら私を奥のほうへ行くように促したのだ。「ええっと、カギは・・・」と言いながらカギを取ろうとしていると奥から奥さんらしき人が現れた。「ん?どうしたの?」と聞く奥さんに、「いや、日本人が来てね・・・」と答えていた。どうやら、私が日本人だというのは、言葉のアクセントからわかったようだった。ということは、案内したいというのは彼のホスピタリティなのだろう。ここは甘えることにしよう。

 彼について部屋に案内される。するとそこはどう見ても「韓国式ヨグアン」だった。ドアを開けると部屋があり、その奥に風呂があるのだが、普通のバスタブが置かれているのだ。まさに「家族湯」というのがぴったりと言うか、お湯が温泉でなければ、ヨグアンと全く変わりがない造りだったのだ。しかも、お世辞にも「きれい」とはいいがたい状態だった。なんということだ。

 しかし、「温泉に入る」という目的だけを考えると、実に合理的だといえる。家族で泊まって、毎日温泉に入るのである。もしかしたら、我々日本人は温泉に対して、温泉以外の要素を求めすぎているのかも知れない。からだの悪い老人を介護しながら風呂に入れるとしたら、むしろこの方が便利なのかも知れない。なるほど。
 主人に御礼を言って、その「チャヨンオンチョン」を後にする。帰り際に主人の写真を撮ってもいいかと聞くと、OKしてくれたばかりでなく、ポーズまでとってくれた。




自然温泉の看板 場所はすぐに分かった



自然温泉



入り口近影 何ともいえない風情



快く撮影に応じていただいた自然温泉の主人

07旅の終わり

 マサン行きのバスは間もなく現れ、来たときを同じ道を戻り、マサン市外バスターミナルまで私を運んでくれた。そろそろ今回の旅も終わりの時間が近づいてきたようだ。そこから釜山行きのチケットを購入してバスに乗り込むと、何の問題もなく、ササンのバスターミナルへと到着したのである。
 今回の旅は、釜山-大田-泰安-安眠島-大川-武昌浦-大川-全州-鎮南-馬耳山-全州-大邱-馬山-馬金山温泉-馬山-釜山という、かなり移動漂泊の旅だった。それなりに現地の人との交流も図れたのではないかと思っている。韓国の田舎を旅して改めて思うのは、やはり人情溢れる人が多いということだ。だから、韓国田舎旅は止められないのである。


(韓国馬金山温泉旅行記 了) 2005年8月16日



馬山行きのバス



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