チチェン・イッツァ訪問記2(メキシコ旅行記)

 

09 聖なる泉セノーテ

 その広場を横切るとまばらな林に出た。そしてそれを進んでいくと、岩盤を大きなドリルでごっそりくりぬ いたような、ぽっかりとした円形の穴のあいている場所に出た。これが生け贄の池「聖なる泉セノーテ」(el cenote sagrado)だ。下を覗いてみると十数メートル下に緑色をした地下水がたまっていた。この遺跡がまだ使用されていた頃、ここで生け贄の儀式が執り行われていたそうだ。体を清められた生け贄を、この池に投げ込むのである。たいていの場合はそこで息絶えるのだが、中には生き延びる者もあったらしい。その場合は引き揚げられ、その者から「神のお告げ」を聞くのだそうだ。生き延びたというのに、何か意味があると考えたからだ。
 ところで我々の常識ではこの「生け贄」が、ばかばかしいものに感じられるのだが、当時のマヤ人にとっては大まじめだったのだ。生け贄にされるのは名誉あることで、しかも天国に行くことが約束されていたため、志願者が絶えなかったらしい。それに「神の命をよみがえらせる」ための生け贄であったため、優秀なものほど生け贄になる資格があり、体力的にも知力的にも優秀なものが真っ先に生け贄にされていったのだ。ガイドさんも指摘していたが、これでは民族として先細りになってしまうのは明白だと思う。マヤが滅びた原因は、案外こんなところに潜んでいるのかも知れない・・・。


10 【球技場(el juego de pelota)

 その池を見学して先ほど歩いてきた道を戻り、「生け贄の台座」(el tzompantli)に向かう。南北60メートル、東西12メートルのT字型の壁で、壁面 全体がドクロのレリーフで埋めつくされていた。生け贄にされた人の頭部をさらすところのようで、みんなここにさらされることにあこがれていたとか。アホくさいようだが、選ばれたものしか生け贄になれなかったわけで、ほんと宗教(?)の力は恐ろしいと感じさせてくれる場所だ。ちなみにtzompantliとは、アステカ族の言葉で「ドクロの壁」という意味らしい。
 その生け贄の台座の隣には、「付属のジャガーの神殿」(anexo de los tigres)球技場(el juego de pelota)があった。球技場では当時、フエゴ・デ・ペロータ(juego de pelota)と呼ばれる球技が行われて、なんとそれに「勝ったチーム」が生け贄にされたそうだ。普通 は負けた方が生け贄にされると思いがちだが、何度も繰り返すように生け贄にされるのは名誉なことで、しかも強いものほどその資格があると考えると当然の結果 なのかも知れない。因みにそのゲームとは、2チーム各7名の選手で構成され、腰の部分につけたラケットのようなものでゴムボールを打ち合い、壁の上の方につけられているリングにそのボールを通 すらしい。手を使うのではなく、腰を振りながら球を打つという寸法だ。当然のことながら、かなり難しいらしい。カンクン近くのシカレーなどのリゾートに行くと、この競技の実演があるらしいく、一度見てみたい変わった球技だ。
 その球技場の壁にはレリーフがたくさん施されていて、そのなかに勝ったチームのリーダーが、自ら首を差し出してはねられているものがある。血が大きく噴き出している様子が生々しく描かれていて印象的だ。
 しかしここまで見学してきて、あまりにも「生け贄の話」ばかりが出てくるので、さんちゃんは、少しうんざりしていたようだった。僕も知識として知ってはいたが、ここまですべてに渡って生け贄文化で彩 られていたとは想像していなかったし、やはりちょっとうんざりしてしまった。何をやるにも生け贄なのだ。しかも沈んだ太陽にエネルギーを送るため、戦士の神殿(現在は登ることを禁止している。残念!)の上にある「チャック・モール」という像の上に生け贄の心臓を生きたまま(?)乗せたりしていたようなのだ。う〜ん、ちょっとえげつないかな。ちなみに、このチャックの像だが、さんちゃん曰く「プリンスのラブアンドセクシーみたい」だそうだ。確かにプリンスっぽいかも。

「生け贄の台座」(el tzompantli)
球技場(el juego de pelota)
球技場横の神殿
選手のレリーフ: 勝ったチームのリーダーが首をはねられている様子
球技場横の神殿



11 再びエル・カスティージョ

 球技場の見学を終えると、メインの「エル・カスティージョ」(el castillo)だ。このツアーでは、ここから自由行動となった。写 真を見て分かるとおり、このピラミッドの階段はとても急なので、登れる人と登れない人がいる。特に降りるときはかなり厳しいらしく、見学の仕方は各自に任せるということなのだ。我々はもちろん登ることにした。
 この建物、底辺が55.5メートル、高さ24メートルの巨大建造物で、現在は二カ所の階段から上ることが出来る。残りの二つは修復されていないので使えない。因みにカスティージョというのはスペイン語で「城」を意味する単語で、英語でいうと「the castle」といった感じだ。
 とにかく時間がないので急いで階段を上り始めのたが、これが思った以上に厳しかった。僕は高いところ大好き人間なので、高さに関しては別 に何ともないのだが、階段の縦幅が狭い上に急で、そのためかたくさんの人がゆっくり登っていたり、また降りる途中ですくんでいたりするので、そういう人を避けながら登らなくてはならないのだ。それになんと言っても高さが半端じゃないので、上に到着する頃には太ももに身が入りかけてしまった。日頃の運動不足を反省してしまう。
 しかし上からの眺めは格別で、360度見渡す限りのジャングルだった。足下に見える遺跡群以外、人工的な建物は一切見えず、果 てしなく続く木と青い空だけが広がっているのだ。もしかして水平線じゃなく地平線というのを初めて見たのかも知れない。感動だった。

 写真を数枚撮り休憩する。日陰に入ると風が涼しい。さんちゃんと二人でぼーっと地平線を眺めていると、足下に同じツアーで来ていた日本人夫婦が座り込んでるのに気がついた。どうやら旦那の方が足がすくんで階段を下りられないようだ。階段の幅が狭くてかなり急なので、登るときより降りるときの方が厳しいのだ。そのため使用可能な階段の一つにはロープが張られてあって、自信のない人はそれにつかまりながら降りるように出来ている。下の方を覗いてみると、両手両足を踏ん張って這うように降りている人が見えた。そしてその先に小さく見える木陰からガイドさんがこちらを心配そうに見上げていた。
 くだんの日本人夫婦に話しかけてみると、僕ら二人が頂上のスペースですたすたと歩き回っていること自体信じられないらしい。確かに柵など一切ないわけで、高所恐怖症の人にとっては立ち上がることすら出来ないでいるようだ。これをお読みの読者の方も、その辺をよく考えた上で登ることをお薦めする。
 そうこうしているうちに時間がなくなってきたので我々も降りることにした。先ほどの日本人夫婦も少し前に意を決したようで、そろりそろりと降り始めていた。
 さんちゃんもさすがに慎重で、ロープを伝いながらゆっくりと降りていった。しかし、ロープには人が鈴なりの状態で、そのうちの一人が恐怖のあまり動けなくなってしまうとそこで渋滞がおこってしまう。さんちゃんはその渋滞君・渋滞ちゃんをさけながら、さらに降りていく。僕は恐怖感をまったく感じなかったので、普段階段を下りるのと同じように小走りに降りていった。要するに階段を下りるだけなので、特別 な技術も何も必要なく、ただ平常心で普段通り階段を下りればいいだけなのだが、そういう人はほとんどいなかった。
 下に降りて改めてピラミッドを見上げてみる。エジプトのピラミッドに比べると小さいのかも知れないが、車輪の概念がなかったマヤで、これだけのものを造るのは並大抵じゃないだろう。その雄大さに感嘆してしまった。  先ほど上から見えていた木陰に向かって歩いていくと、すでにガイドさんの周りに何組かのカップルが戻ってきており、それぞれチチェン・イッツァを楽しんできたようだった。そして、先ほどの高所恐怖症夫婦がなんとか無事に降りてきたところで、集合時間となった。

 チチェン・イッツアから帰りに、近くのバイキング式のレストランによって昼食を取った。土産物屋も併設されていて、たくさんの観光客でごった返していた。どうやらツアー客の大部分がここに集められるらしい。食事はそれなりのもので、あまり美味しいとは言えなかったが、一番の問題は「トルティーヤ&サルサ」がないことだった。メキシコまで来て普通 の料理を食べても仕方がない。ということで、連れあいのさんちゃんが「トルティーヤをくれ」と主張すると、今まで並べられていなかったのにトルティーヤが出てきたのだ。ううむ、言ってみるものだ。それを他の日本人カップルたちにもふるまったところで、予定されていた行事は終了したのだった。


12 旅の終わりに

 やはり、チチェン・イッツァはすごかった。カンクンに行く人は、ぜひここを訪れることを強くお薦めする。ただ、ツアーにはいろいろ種類があって、自由時間が少ないものなどもあるので、注意が必要だ。今回のツアーも、ちょっと自由時間が少ない印象だった。
 ガイドブックなどをすでに購入して研究済みの方なら、ピラミッドの中に入れるというのをご存じかも知れない。内部に何層にもわたってピラミッドが築かれているのだ。僕もそれを事前に知っていたので、是非、中に入りたいと思っていたのだが、ピラミッドに登って降りるだけで、時間切れとなってしまった。内部に入るのに人数制限があって、入るまでにかなり時間を食うのだ。ピラミッド内部とピラミッドに登るのと両方やろうとすれば、相当の時間がかかるので、ツアーに申し込む場合は、自由時間がどのくらいあるのかを確認してから申し込むようにしたい。

 

メニューへ戻る